体の中には、あなたの細胞が30兆個と、あなたではないものが38兆個あります。生まれた日を入れると、その中で今日までに起きたことを数えます。
入力した日付はどこにも送信されず、保存もされません。すべてこのブラウザの中だけで計算されます。入力しなくても150項目すべて読めます。
皮膚を壁と呼びますが、その壁は止まっていません。境界から揺さぶって、それから中へ入ります。
皮膚はあなたと世界を隔てる壁のように見えます。ところがその壁は止まっていません。外側の細胞は2週間から4週間ごとにまるごと新しくなります。古いものは剥がれ落ちます。家の中のほこりのかなりの部分は、人から出たものです。
いまあなたを包んでいる表面は、一か月前のそれではありません。境界は線ではなく描き直され続ける場所です。あなたが座っていた場所には、さっきまであなただったものが少し残っています。
口から肛門までは一本につながった管です。その管は体を貫いています。飲み込んだものは、まだ体の中に入っていません。腸の壁を通って吸収される瞬間にはじめて中に入ります。
位相幾何学で見ると、人は球ではなく穴が一つあいたドーナツです。だから「体の中」という言葉は思ったより狭いのです。私たちが中と呼ぶ場所の大部分は、いまも外とつながっています。
境界をどこに引くか決めると、次の問いが自然についてきます。その境界の内側には、本当にあなただけがいますか。
「触れた」と感じる瞬間にも、原子と原子のあいだには隙間があります。近づくほど電子殻どうしが押し返す力が急激に大きくなり、その力がそれ以上入れないようにします。止めているのは物質ではなく力です。
触感は、その力が皮膚の中の受容器を押して生まれた信号です。あなたが一生触ってきたのは物の表面ではなく、物がつくり出した押し返しでした。
反発力は距離にとても敏感で、半分まで近づくと数百倍になります。ここではその急激さを示すための相対値だけを使います。
二点を別々に感じられる最も近い距離を二点識別閾といいます。指先は約2ミリメートル、唇はそれよりさらに細かく、背中は40ミリメートルを超えます。背中に指を2本、4センチ離して当てると一点に感じられます。
体は均一に感じているのではありません。触覚受容器が密集した場所とまばらな場所があり、脳でその信号を受け取る面積もそれだけ違います。あなたが感じている体の地図は、実際の体の形に似ていません。
体でいちばん大きな臓器は心臓でも肝臓でもなく皮膚です。成人で面積およそ2平方メートル、重さおよそ4キログラム。体重の15パーセント前後を占めます。
皮膚は覆いではなく器官です。体温を調節し、水を抱えこみ、日光を受けてビタミンDをつくり、侵入を最初に食い止めます。そしてそのすべてをしながら、自分自身をつくり直し続けます。
寒いときに腕に立つあれは、毛を立てようとする筋肉が縮んだ跡です。毛一本ごとに立毛筋というとても小さな筋肉がついています。
毛の厚い動物にはこれが役に立ちます。毛を立てると空気の層が厚くなって暖かくなり、体が大きく見えて威嚇になります。人の毛はそれには細すぎます。機能は消えたのに回路が残りました。
だから鳥肌は体の誤作動ではなく、昔の体の習慣です。音楽に鳥肌が立つときも同じ筋肉が動きます。
人の体の毛包は約500万個と推定されます。チンパンジーと同じくらいの数です。違うのは数ではなく太さと長さです。ほとんどが目立たないうぶ毛のまま残りました。
だから「毛を失った」という言い方は正確ではありません。毛包はそのままあり、生え方だけが変わりました。体は何かを手放すとき、構造を消すよりも設定を変えるほうをよく選びます。
指紋が物をつかむときの摩擦を増やすという説明は長く通用してきました。ところが滑らかな面で測ってみると、指紋の隆線は接触面積をむしろ減らすという結果が出ました。
いまより有力な説明は別のほうです。隆線が表面をこするときに生まれる振動が、皮膚の中のパチニ小体がよく受け取る周波数帯と一致するというものです。すべらないためではなく、よりよく感じるための仕掛けかもしれません。
まだ確定した話ではありません。このサイトは確定していないことを確定したようには書きません。科学がまだ答えを選んでいる最中だという事実そのものが情報です。
傷がふさがる過程は四段階で進みます。血を止め、炎症で掃除し、新しい組織で素早く埋め、数か月かけて織り直します。
三段階目で体は、もとと同じ構造を復元するかわりにコラーゲンを急いで積んで穴をふさぎます。完全に戻すにはずっと時間がかかり、そのあいだ感染の危険が大きくなります。傷あとは、体が完全さより速さを選んだ跡です。
胎児のころは傷あとを残さずに治ります。子宮の中は感染の危険が低く、急ぐ理由がないためと見られています。
外と接する面は皮膚だけではありません。息と食べ物が通る道もすべて外と接する面です。そしてそちらのほうがはるかに広いのです。
肺胞をすべて広げると約70平方メートル、腸の内側は絨毛まで広げて約32平方メートルです。体が世界と出会う面積の大部分は体の中に折りたたまれています。
だから体は折りたたみの技術でできています。広くなければならないのに大きくはなれないので、折ります。この原理は中へ入るほど繰り返し出てきます。
腸の表面積を「テニスコート」にたとえる文がひろく広まりましたが、2014年の再測定では約32平方メートルに狭まりました。ここでは訂正された値を使います。
あなたが何もしていないあいだにも、体の中では一度も休んだことのない仕事が進んでいます。ここから数字があなたのものになります。
一度も休んだことがありません。眠っているあいだも、あなたが別のことを考えているあいだも打っていました。この文を読むあいだにも何度か打ちました。
心筋はほかの筋肉と違って自分で拍動をつくります。神経をすべて切っても打ちます。実際、移植された心臓は神経がつながらないまま打ちはじめます。
一回の拍動で筋肉が実際に縮む時間は約0.3秒です。残りの0.5秒は弛緩です。毎分72回で計算すると、一日に休んでいる時間だけで12時間を超えます。
しかも心筋そのものに血が届くのは弛緩期です。絞っているあいだは自分の血管が押しつぶされて血が入れません。休んでいるあいだにしか食べられない構造です。
だから心拍数がとても速くなると弛緩期が先に短くなり、心臓は自分の分の血を受け取れなくなります。
心臓の内側にはいつも血が満ちています。ところが心筋はその血を直接使えません。壁が厚すぎて、内側の血が筋肉の中まで染み込まないからです。
だから心臓は自分自身に血を送る別立ての血管を持ちます。大動脈が始まるとすぐ二本が分かれ出て、心臓の外側を王冠のように包みます。冠動脈という名はその形から来ました。
ポンプが自分に燃料を送るために、外へ管を出さなければならないということ。体の中の解決策は、しばしばこうして迂回路をつくる形をとります。
吸い込んだ空気の21パーセントが酸素ですが、体が実際につかまえるのはそのうち4分の1ほどです。吐く息にも酸素が16パーセントほど残っています。人工呼吸ができる理由がここにあります。
そして空気はとてもよく混ざります。大気全体は思ったより薄く、数百年あれば地球を一周します。いま吸い込んだ息の中には、これまでに生きたほとんどすべての人が吐いた分子が少しずつ入っています。
息を止めると胸が苦しくなります。その信号をつくるのは酸素不足ではなく二酸化炭素がたまることです。体は酸素の濃度より、血液の酸性度の変化をはるかに敏感に見張っています。
この設計には理由があります。酸素には余裕があって少し減ってもわかりにくいのに対し、二酸化炭素は少したまるだけで血のpHがすぐ揺れます。より危険なほうを警報にしたのです。
だから酸素のない気体を吸っても苦しさは感じられません。警報が鳴らないからです。窒素で満ちた密閉空間が危険な理由がこれです。
止めた時点は、酸素が尽きた時点ではありません。その時点でも血液の酸素飽和度はほとんどそのままです。あなたを止めたのはたまった二酸化炭素が入れた警報です。
数字がいくつでも構いません。ここで知っておくことは一つだけです。あなたは体の状態を直接知っているのではなく、体が選んで送ってくる信号だけを受け取っているということ。
苦しければすぐにやめてください。水中や運転中には絶対に行わないでください。このページは健康情報を提供せず、どんな記録も保存しません。
肺の中には直径0.2ミリメートルほどの袋が約3億個あります。すべて広げると70平方メートルほど、部屋一間を覆う広さです。
その袋の壁は厚さが1マイクロメートルもありません。細胞一枚、その向こうに毛細血管一枚。酸素が渡る距離は髪の太さの100分の1より短いのです。
胸の中に70平方メートルを入れる方法は一つしかありません。折ることです。10番で見た原理がここでまた出てきます。
10万キロメートルのうち、大動脈のような太い道はごく一部です。総延長の大部分は毛細血管で、その直径は赤血球一つがやっと通れるほどです。赤血球は体を折りたたみながら通ります。
体のどの細胞も毛細血管から0.2ミリメートルより遠くにはありません。30兆個すべてが配達可能な距離の中に配置されています。
赤血球は成熟するときに核を捨てます。ミトコンドリアも捨てます。酸素を積む空間を一つでも多くつくるためです。おかげでヘモグロビンを細胞一つに2億5千万個まで詰め込みます。
そのかわり代償があります。設計図がないので自分を直せません。損傷がたまればそのまま壊れます。だから寿命が約120日です。
体にはいまこういう細胞が25兆個あります。壊れることを前提につくられた細胞が、体でいちばん多い細胞です。
酸素を運ぶには、酸素をつかまえては放す金属が必要です。人は鉄を使います。鉄が酸素と結びつくと赤く見えます。血が赤い理由はそれだけです。
カニ・タコ・カブトガニは銅を使います。銅が酸素と結びつくと青く見えます。一部の虫は緑色の色素を使い、南極のある魚は色素そのものをあきらめて透明な血で生きています。
酸素を運ぶ方法は一つではありませんでした。いまあなたの中にある解法は、いくつもの答えのうち一つが生き残ったものです。
大動脈で血は秒速40センチメートルで走ります。毛細血管では秒速0.3ミリメートル、千倍以上も遅くなります。道が狭くなったのに、なぜ遅くなるのでしょうか。
枝が分かれるほど管一本は細くなりますが、全体の断面積はかえって大きくなるからです。広いところではゆっくり流れます。そしてその遅さが目的です。酸素と栄養が渡る時間を稼がなければならないからです。
体は、速く送ることとゆっくり留まることを同じ管で解決しました。
体には循環系が二つあります。一つは心臓が押す血管、もう一つはリンパ管です。ところがリンパ系にはポンプがありません。
リンパは筋肉が縮むときに管が押されて上へ送られます。弁があるので逆流しません。動かなければ流れません。長く座っていると脚がむくむ理由がここにあります。
一日に循環する量は2〜3リットルほどと少ないのですが、この道がふさがると組織に水がたまります。免疫細胞が通る道でもあります。
すべての細胞は内側を外側より負に保っています。電位差は約-70ミリボルト。膜の厚さが5ナノメートルしかないので、厚さで割ると1メートルあたり1400万ボルトに相当する電場です。雷の中より強い場が、すべての細胞膜に常時かかっています。
神経が信号を送るやり方は、この電位を一瞬だけひっくり返すことです。ひっくり返った場所が横へ広がっていくのが神経伝達です。電線を電子が流れるのとは原理が違います。
ところが全部合わせても電球一つ点けられません。体の電気は力を出すためのものではなく、話をするためのものです。
声は声帯が振動して出る音です。その振動数がそのまま音の高さです。成人男性はおよそ85〜180Hz、女性は165〜255Hzの範囲で話します。1秒に100回から250回ほど開いて閉じるということです。
声帯そのものはブザーに近いものです。言葉になるのはその次です。舌・唇・あご・軟口蓋が通り道の形を変え、特定の周波数を強めたり殺したりします。音は喉で生まれ、言葉は口でつくられます。
自分の声が録音で知らない人のように聞こえる理由もここにあります。ふだん聞いていた音には、頭蓋骨を通ってきた低音が混ざっていたからです。
食べるということは、外にあった物質をあなたの配置の中へ移してくる仕事です。その道は9メートルの管ひとつです。
飲み込んだものが体を通り抜けるのにかかる時間は一日から二日です。その大部分は、大腸で水を取られながら待っている時間です。
いちばん速い区間は食道です。7秒。重力ではなく筋肉の波が押し下げます。逆立ちしても食べものは下りていきます。
口・食道・胃・小腸・大腸は別々にある器官ではなくつながった一本の管です。成人で長さは約9メートル。身長の五倍がおなかの中に折りたたまれています。
区間ごとに仕事が違うだけで、壁の基本構造は同じです。内側から粘膜・筋肉・外膜。その筋肉が順に締まりながら中身を一方向へ押し出します。
この管は体を貫いて通ります。2番で見たとおりです。あなたの内側の半分は、厳密にいえば外です。
腸の表面積を「テニスコート」にたとえる文がひろく広まりましたが、2014年に測り直した結果は約32平方メートルでした。部屋一間ほどです。ここでは訂正された値を使います。
それでも驚くのは倍率です。滑らかな管だったら0.5平方メートル。ひだ・絨毛・微絨毛を順に重ねて60倍以上に広げました。
広くなければならないのに大きくなれないとき、体が使う方法はいつも同じです。折ること。
誇張されたたとえが長く引用されることはよくあります。このサイトは訂正された値があれば訂正された値を使います。
胃液のpHは1.5から3.5のあいだです。純粋な水より数十万倍の酸性で、かみそりの刃を浸けておくと実際に腐食します。
では胃自身はなぜ溶けないのでしょうか。二つが止めます。一つは粘液の層、もう一つは速さです。胃壁の細胞は約5日ごとにまるごと新しいものに入れ替わります。
損傷を防げないとき体が使うもう一つの答えがここにあります。耐えるかわりに、傷むより速く新しくつくること。
唾液にはアミラーゼという酵素が入っています。でんぷんを切って糖にする酵素です。ごはんを長くかむと甘みが出るのは口の中ですでに分解が進んでいるからです。
ただし長くは続きません。胃へ下りて酸に出会った瞬間、アミラーゼは働きを失います。消化は区間ごとに担当の酵素が変わりながら、リレーのように進みます。
一日に出る唾液は1リットルから1.5リットル。その大部分は食べていないあいだも出続けています。
人は一日に600回前後飲み込みます。そのうち意識するのはごく一部です。眠っているあいだにも50回ほど飲み込みます。
飲み込みは体でもっとも複雑な反射のひとつです。20を超える筋肉が決まった順に動かなければならず、そのあいだ気道は正確なタイミングで閉じなければなりません。少しずれるとむせます。
ところが意識しようとするとかえって難しくなります。体には、あなたが関わらないときのほうがうまく働く部分がたくさんあります。
健康な人のあいだでも通過時間は12時間から48時間まで開きます。何を食べたか、どれくらい動くか、腸にどんな細菌が住んでいるかによって変わります。
平均値ひとつで体を説明しにくい理由がここにあります。このサイトのすべての数字はあなたを診断しません。大きさの感覚を与えるためのものです。
腸の壁の中には5億個ほどの神経細胞が網のように敷かれています。ネコの脳全体の神経細胞数と同じくらいの規模です。これを腸管神経系と呼びます。
変わっているのは自律性です。脳へ向かう神経を切っても腸は自分で判断して動きます。何が入ってきたかを感知し、どの筋肉をいつ締めるかを決めます。
体の中に司令部が一つだけあるはずだという考えは正確ではありません。いくつもの場所がそれぞれ決め、互いに報告しています。
セロトニンは気分に関わる物質として知られていますが、体の中のセロトニンの90パーセント以上は腸でつくられます。そこでしている仕事は気分ではなく腸の運動の調節です。
ここで気をつけることがあります。腸のセロトニンは血液脳関門を越えられません。腸でつくったセロトニンがそのまま脳の気分になるのではありません。「腸が感情をつくる」という文は誇張です。
腸と脳が神経と免疫と代謝物質を通じて互いに影響するというところまでは根拠があります。それ以上はまだ研究中です。ここで止まるのが正確な記述です。
空腹は胃の空っぽな状態を直接感じる感覚ではありません。胃と脂肪組織が出すホルモンが脳の視床下部に届いてつくられる解釈です。グレリンは食べろと言い、レプチンはやめろと言います。
だから空腹は時計にも反応します。いつも食べていた時間になると、胃が空でなくても信号が来ます。体は状態だけでなく予測でも動きます。
このサイトはここから先へは進みません。どれだけ食べるべきか、何カロリーか、体重はどうあるべきかは扱いません。
新生児の体は重さの約75パーセントが水です。成人は60パーセント前後、年を重ねるともう少し下がります。筋肉は水を多く抱え、脂肪は少ししか抱えないので、構成によって変わります。
その水はただ満たされているのではありません。3分の2は細胞の中にあり、残りが細胞のあいだと血液にあります。濃度の差を保つこと自体が、体のするもっとも基本的な仕事です。
だから「水を飲む」ということは補充ではなく、流れを保つ仕事に近いのです。
割合は人によって違い、同じ人の中でも一日のうちで変わります。ここに出た値は範囲の真ん中であって、あなたの値ではありません。
確かなのは方向だけです。生まれたときにもっとも水が多く、その後ゆっくり減っていきます。減るのは水だけではなく、水を抱えておく組織です。
ここがこのサイトの言おうとしていることの真ん中です。体の中にはあなたでないものが住み、その一部は別の人から来ました。
2016年に数え直した結果です。それまでは細菌が十倍多いと言われていましたが、実際にはおよそ1対1.3でした。それでも細菌のほうが多いのです。
大部分は大腸にいます。彼らはあなたが消化できないものを代わりに分解し、ビタミンをつくり、免疫を調律します。いなければ生きるのが難しくなります。
あなたは一人の人ではなく、一つの群れがともに保っている状態です。
「体の中の細菌はヒト細胞より十倍多い」という文は、1972年に出た概算でした。腸の内容物1グラムに細菌がどれくらいいるだろうと仮定し、腸の体積をかけたものです。論文に根拠として付いた計算は一段落だけでした。
2016年、三人の研究者が実際に組織ごとに数え直しました。結果はヒト細胞3.0×10¹³、細菌3.8×10¹³。10対1ではなく1対1.3でした。
ここで大事なのは新しい数字ではなく直されたという事実です。科学が信頼できるのは間違えないからではなく、間違えたものを直す手続きを持っているからです。
Sender R, Fuchs S, Milo R (2016) Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body. PLoS Biology 14(8).
体に住む細菌は種で数えると数百から千種ほどです。人の遺伝子は約2万個ですが、彼らの持つ遺伝子をすべて合わせると200万個を超えます。
遺伝子とはつまり、できることの一覧です。つまり体の中で起きている化学反応の一覧を並べてみると、その大部分はあなたのものではありません。
だから一部の研究者は、人を「ヒトゲノム+微生物ゲノム」を合わせた一つの単位として扱おうと提案します。受け入れるかどうかはまだ議論の途中です。
腸内細菌は、人の酵素が切れない食物繊維を分解します。その過程で出る短鎖脂肪酸は大腸の細胞の主なエネルギー源になります。大腸の細胞は、血液より先に細菌がくれたものを使います。
ビタミンKとB群の一部も彼らがつくります。病原体が住みつく場所を先に占めて防ぐこともします。免疫細胞が何を攻撃し何を見逃すかを学ぶ過程にも関わります。
無菌状態で育てた動物は、腸の構造と免疫系がきちんと発達しません。体は彼らがいることを前提に設計されています。
38兆個という数を聞くと重そうに感じますが、すべて集めても0.2キログラムほどです。「腸内細菌が1.5キログラム」という文もひろく広まりましたが、過大な見積もりでした。
細菌一つの体積はヒト細胞の数百分の一です。数が近くても質量は比べものになりません。
数が多いということと重いということは別の話です。体の中で影響力はたいてい重さではなく、数と位置から生まれます。
胎児の腸はほぼ無菌に近い状態です。最初の定着は生まれる過程とその直後に起きます。産道を通りながら、皮膚に触れながら、飲みながら受け取ります。
帝王切開で生まれた赤ちゃんと自然分娩で生まれた赤ちゃんは、初期の細菌構成が違って観察されます。ただし数か月から数年のあいだにその差はかなり縮まります。長期的な影響についてはまだ結論が出ていません。
ここで優劣は言いません。事実だけを書きます。あなたの体に最初に入ってきた生命を、あなたは選んでいません。
抗生物質は狙った菌だけを選んで殺すわけではありません。腸に住む群れも一緒に減ります。構成がもとに戻るまでにはたいてい数週間から数か月かかります。
そして一部の種は戻ってきません。空いた場所を別の種が先に占めれば、以前の構成は復元されません。森が焼けたあと、生えてくる木が変わるのと同じです。
だからといって抗生物質を避けるべきだという話ではありません。このサイトは治療について助言しません。ここで言いたいことは一つです。体の中の構成員は名簿ではなく生態系です。
約20億年前、ある細胞が別の細胞を飲み込みました。消化されず、出ていきもしませんでした。中に残ってエネルギーをつくり、代わりに守られました。それがミトコンドリアです。
証拠はいまも体の中に残っています。ミトコンドリアは自分のDNAを別に持っています。そのDNAは細胞核のものではなく、細菌のものに似た輪の形です。膜も二重で、自分で分裂します。
あなたがいま使っているエネルギーは、すべてその昔飲み込まれた細菌の子孫がつくっています。「あなたでないもの」は腸だけにいるのではなく、細胞一つ一つの中にいます。
精子にもミトコンドリアはあります。しかし受精後、大部分は分解されて消えます。残るのは卵子にあったものだけです。だからミトコンドリアDNAは母の系統だけを通ってつながります。
この性質のおかげで、系譜を逆にたどることができます。母の母の母へとさかのぼり続けると、いま生きているすべての人が一人の人に集まります。
その人をミトコンドリア・イブと呼びます。人類最初の女性という意味ではなく、母系の系譜だけをたどったときに出会う、もっとも新しい共通祖先という意味です。
8000人あまりです。一列に並べても数キロメートルにもなりません。その列のいちばん端にいる人から受け取ったものが、いまあなたの細胞の中でエネルギーをつくっています。
そしてその列は人で終わりません。もっとさかのぼれば20億年前に飲み込まれた細菌が出てきます。あなたの中には、一度も切れたことのない線が一本通っています。
妊娠中に胎児の細胞の一部が胎盤を越えて母の血液に入ります。そして出産後も消えません。血液から、皮膚から、肝臓と心臓から見つかります。出産後数十年たった人からも確認されます。
この現象をマイクロキメリズムと呼びます。一つの体の中に遺伝的に異なる細胞が混ざって生きている状態のことです。
その細胞が何をしているのかはまだ整理されていません。組織の修復を助けるという観察もあり、免疫に関わるという観察もあります。確かなのは残っているという事実そのものです。
渡ったのは一方向ではありませんでした。母の細胞も胎盤を越えて胎児に入ります。そしてその細胞は生まれたあとも残ります。大人になった人からも検出されます。
ですからあなたの体には、あなたがつくらなかった細胞があります。あなたより先に存在し、別のゲノムを持ち、いまあなたの中で生きています。
ここでこのサイトの文が完成します。体の中にある「あなたでないもの」は細菌だけではありません。人もいます。 あなたは一つではありません。はじめからそうでした。
マイクロキメリズムは観察された現象であり、その機能と影響は研究が進行中です。ここでは確認された事実だけを書きました。
ヒトゲノムの約8パーセントは、昔に侵入したレトロウイルスの痕跡です。生殖細胞に入り込んだ配列は次の世代へそのまま伝わります。そうして数千万年のあいだ積み重なりました。
実際にたんぱく質をつくるヒト遺伝子は全体の2パーセントあまりです。体の中に残ったウイルスの痕跡のほうが、ヒト遺伝子より四倍多いのです。
大部分は壊れたまま静かにしています。ところが、すべてがそうというわけではありません。
胎盤には、細胞どうしが膜を取り払って一つに融合した層があります。母体と胎児のあいだで栄養は通し、免疫の攻撃は防ぐ層です。その融合を起こすたんぱく質がシンシチンです。
シンシチンをつくる遺伝子は、人がはじめから持っていたものではありません。レトロウイルスが自分の殻を細胞にくっつけるときに使っていた遺伝子を、体がそのまま取り込んで使ったものです。
侵入の道具が保護の道具になりました。あなたがこの世に出てきた仕組みそのものが、はるか昔にあなたの祖先を感染させた何かから借りたものです。
体をつくる材料は出ていき、新しく入ってきます。それでもあなたはあなたのままです。何が残っているのでしょうか。
組織ごとに入れ替わる速さが違います。胃壁は5日、皮膚の外側は2〜4週間、赤血球は120日、肝細胞は1年あまり、骨は毎年10分の1ほどが新しいものに変わります。
だから「体は7年ごとに完全に入れ替わる」という言い方は正確ではありません。速さは組織ごとに違い、まったく入れ替わらない部分もあります。それでも大部分は入れ替わります。
物質がすべて入れ替わるのに同じものと呼べる理由は、私たちが名づけた対象が物質ではなく配置だったからです。川は水ではなく、水が流れる形です。
体もそうです。あなたをつくる原子は借りたもので、もうすぐ出ていきます。残るのは、その原子がどんな順に置かれていたか、どんなつながりを保っていたかです。あなたは物質ではなくパターンです。
そしてこれを失っていく過程と見る必要はありません。止まれば死にます。入れ替わっているということが、生きているという意味です。
同じ数だけ新しく生まれました。だから総数はほとんど変わりません。入ってくる量と出ていく量が釣り合っている状態 — それが維持です。
細胞30兆個がそれぞれ自分の仕事をします。全体を知る中央はありません。あなたというものは、その30兆個がつくり出す合意に近いのです。
細胞が死ぬやり方には二つあります。一つは事故で破れること、もう一つは手続きを踏んで自分を片づけることです。後者をアポトーシスと呼びます。
アポトーシスに入った細胞はDNAを細かく切り、膨らまないように体を折りたたみ、「私を片づけてください」という目印を外に掲げます。すると隣の細胞や免疫細胞が静かに飲み込みます。炎症は起きません。
この手続きが壊れて、死ぬべき細胞が死なずに増え続けるのががんです。体において死は失敗ではなく機能です。
胎児の手ははじめヘラの形です。指が一本ずつ生えてくるのではなく、板が先にでき、指のあいだの細胞が命令を受けて消えながら分かれます。
彫刻家が石を削って形をつくるのと同じです。体はつくって付け足すより、要らない部分を消すやり方をよく使います。
脳でも同じことが起きます。幼いころにつくられたつながりのかなりの部分が、あとで整理されます。何が残るかは、何を消したかで決まります。
骨は固まった石ではありません。破骨細胞が古い部分を溶かし、骨芽細胞がその場所を新しく埋めます。この循環で成人の骨は毎年10パーセントほどが入れ替わります。
このやり方には理由があります。力を多く受ける場所はより厚く、受けない場所は薄く配置し直せます。骨は使われ方に合わせて毎年設計し直されます。
だから長く動かないでいると骨が薄くなります。宇宙で長く過ごした人に起きるのがそれです。
絶対的な強度だけで見れば鋼鉄が骨より強いのです。ところが鋼鉄は骨より四倍以上重いのです。同じ重さに揃えて比べると順番が変わります。
体は自分の重さを自分で持ち運ばなければなりません。だから大事なのは絶対的な強度ではなく重さあたりの強度です。骨はその条件で選ばれた材料です。
しかも骨は折れても自分でまたくっつきます。鋼鉄にはない性質で、それが生きている材料の利点です。
筋肉にふだんより大きな力がかかると、筋線維に微細な損傷が生まれます。体はそれを修復しながら前より少し厚くつくります。次に同じ力が来ても耐えられるようにする調整です。
ですから成長は運動しているあいだではなく休んでいるあいだに起きます。回復がそのまま成長です。
筋細胞の核はなかなか消えません。運動をやめて筋肉が減っても核は残る傾向があります。体は一度覚えたことを構造として記憶します。
体のほとんどすべてが入れ替わりますが、例外があります。目の水晶体の中心部のたんぱく質は胎児のときにつくられたものが一生そのまま残ります。歯のエナメル質も一度つくられたら二度とつくり直されません。大脳皮質の神経細胞と心筋細胞も、大部分が一生をともにします。
入れ替わらないということは、損傷が消えないということです。水晶体のたんぱく質は数十年のあいだ紫外線と酸化をそのまま受け、少しずつ固くなり濁っていきます。
入れ替えることは代償を払いますが、入れ替えないこともまた代償を払います。体は部位ごとに違う選択をしました。
髪の毛一本は一か月に1.25センチメートルほど伸びます。遅く見えますが10万本が同時に伸びます。合わせると一日に30メートルを超えます。
その長さはすべてたんぱく質です。ケラチンをつくって押し出す仕事が、頭皮の下で休まず進んでいます。あなたが何もしていないあいだにも。
体のほかの場所にはリンパ管があって老廃物を回収します。脳にはリンパ管がほとんどありません。かわりに脳脊髄液が血管に沿った通路から入り、組織のあいだを洗って出ていきます。この系統をグリンパティック系と呼びます。
変わっているのは時点です。この流れは眠っているあいだに大きく活発になります。眠るときに神経細胞のあいだの空間が広がり、液体が通りやすくなるという観察があります。
眠りは何もしない時間ではなく、起きているあいだにはできない仕事をする時間です。片づけは店じまいのあとにするものです。
人生の3分の1は眠りです。無駄のように見えますが、眠りをなくせたなら進化はとうになくしていたはずです。眠っているあいだは食べることも逃げることもできません。その危険を引き受けるほど必要な仕事が、その時間に起きています。
夢を見るレム睡眠は新生児でとくに長く、全睡眠の半分近くを占めます。まだ世界をほとんど見ていない脳が何を整理しているのかは、まだわかっていません。
体の外のことは、すべて信号に翻訳されて入ってきます。翻訳には時間がかかり、抜けたところは埋められます。
光が目から指まで行く物理的な距離は2メートルもありません。神経信号が秒速120メートルで走るなら20ミリ秒で十分です。ところが実際の記録は200から300ミリ秒です。
その差は配線の長さではなく判断に費やされました。網膜が信号に変えるのに、視覚野が「何かが変わった」と結論を出すのに、そして押せと決めるのに時間がかかります。
あなたが世界に反応する速さの大部分は、移動の時間ではなく解釈の時間です。
どんな記録も保存も送信もしません。再読み込みすれば消えます。
もっとも速い神経線維の伝達速度は秒速120メートルほどです。音は空気中を秒速343メートルで進みます。体の中は空気中より遅いのです。
しかもすべての神経が速いわけではありません。痛みのうち鈍く広がる種類を運ぶ線維は秒速1メートルもありません。だから足の指をぶつけると鋭い痛みが先に来て、重い痛みがあとから来ます。同じ出来事なのに二度到着します。
速い線維には絶縁の鞘が巻かれていて、信号がそのあいだを飛び越えて進みます。速さを上げるには材料をもっと使わなければなりません。体は必要な場所にだけその費用を払いました。
光が網膜に届き、信号がつくられ、脳がそれを場面として組み立てるのに、およそ100ミリ秒かかります。いま見えているものは、すでに過ぎた瞬間です。
ところが私たちはたいてい外さずに飛んでくるボールをつかみます。脳が遅れを知っていて先を予測して補正しているからです。見えている位置は、実際には脳が計算した「今ごろここにあるはずの場所」です。
あなたが見ている現在は、測られたものではなく推定されたものです。
足先に触れた信号が脳に届く時間は、顔に触れた信号より数十ミリ秒長いのです。距離が違うのですから当然です。
ところが足と顔を同時に触れると、私たちは同時だと感じます。脳が到着時刻ではなく出来事の時刻を再構成しているからです。先に来た信号をしばらく抑えて、遅れて来るものを待ちます。
だから「いま」は瞬間ではなく幅のある窓です。およそ100ミリ秒ほどの窓。その中に入った出来事は、すべて同時に起きたことになります。
消えた場所は、視神経が眼球を出ていく穴です。そこには光を受ける細胞がありません。直径1.5ミリメートルほどの本物の穴が、両目に一つずつあります。
ところがふだんは視野に黒い点が見えません。片方の目がふさぐ場所をもう片方の目が見ていて、片目だけ開けていても脳がまわりの模様でその場所を埋めるからです。
これは説明ではなく証明です。たったいまあなたの目の前で実際に消えました。見えているものが、あるもののすべてではないという事実を、体が直接見せてくれます。
盲点の場所に壁紙の模様があれば、脳はその模様をつなげて描きます。縞があれば縞を、灰色なら灰色を埋めます。確かめたことのないものを、確かめたかのように見せます。
これは欠陥ではなく方針です。毎瞬すべての場所を確かめるのは費用が大きすぎます。だから脳は大部分を推測で埋め、予想と食い違う場所にだけ注意を使います。
ですから「見る」ということは書き取る仕事ではなく書き直す仕事に近いのです。あなたの知る外の世界は、体がつくったもっともそれらしい草稿です。
網膜の神経節細胞は約100万個で、ここから脳へ出ていく情報量は毎秒10メガビットほどと推定されます。
ところが意識が扱う量はそれとは比べものになりません。いくつもの推定で毎秒数十ビットほどと見られています。入ってきたものの100万分の1ほどだけが「見た」になります。
残りが捨てられるわけではありません。姿勢を保ち、目を動かし、危険を感知するのに使われます。ただ、あなたに報告されないだけです。
光には波長があります。色はありません。色は三種類の錐体細胞がそれぞれどれだけ反応したかを脳が比べて付けた名前です。
証拠はマゼンタです。マゼンタにあたる波長は存在しません。赤と青が一緒に刺激されたときに脳がつくり出す色です。スペクトルにない色を、私たちは平気で見ています。
錐体細胞を四種類持つ動物は、私たちが区別できない色を見ます。世界に色が何種類あるかは、世界ではなく見る側が決めます。
先天性無痛症というまれな状態があります。生まれたときから痛みを感じません。苦しみがないので楽そうに思えますが、逆です。舌をかんでも気づかず、骨折した足で歩き、やけどに気づきません。
痛みは損傷を知らせる信号であり、その部位を使えなくする強制装置でもあります。休ませなければ治りません。
だから痛みは故障ではなく保護です。不快になるよう設計された理由は、不快でなければ人が言うことを聞かないからです。
かゆみは痛みとは別の経路で伝わります。担当する神経線維も違い、生み出す行動も反対です。痛みは避けさせ、かゆみはかかせます。
かくと気持ちいいのは、かく刺激が弱い痛みをつくってかゆみの信号を覆うからです。脊髄で二つの信号が互いを抑え合います。ただし、かいた場所には再びかゆみを呼ぶ物質が出ます。
かゆみには目的があったはずです。皮膚についた虫や寄生虫を落とすこと。いま残っているのはその回路だけです。
基準の状態です。
体が正常に働く幅は10度もありません。外の気温は氷点下40度から40度以上まで動くのに、内側はその狭い窓を守り続けます。
理由は酵素です。体の化学反応を進めるたんぱく質は形がそのまま機能であり、その形は温度に敏感です。数度外れるだけで折りたたみが乱れます。
あなたの体温は維持されているのではなく、毎瞬守られているのです。
このスライダーは、温度が生体におよぼす一般的な物理・化学的説明です。症状の判断や医学的助言ではありません。
体温を守るやり方は二つの方向です。足りなければつくり、あふれれば捨てます。ふるえは筋肉を空回りさせて熱をつくることであり、汗は水を蒸発させて熱を持っていかせることです。
判断は視床下部で行われます。目標値を決めておき、皮膚と血液から来る温度を比べてどちらの装置を入れるか決めます。サーモスタットと同じ構造です。
熱が出るのは、この目標値そのものが上がった状態です。だから熱が上がるときはかえって寒く感じます。体は新しい目標に対してまだ足りないと判断したのです。
脳の重さは体の2パーセントあまりなのに、使うエネルギーは全体の20パーセントです。重さに対して十倍です。
そしてその消費は、考えていてもいなくても大きくは変わりません。大部分は神経細胞が膜の内外の電位差を保つのに使われます。話す準備の状態を保つこと自体が、いちばん大きな費用です。
幼い子どもはこの割合がもっと高くなります。五歳のころには全エネルギーの半分近くが脳へ行きます。人は体より脳を先に育てるほうを選びました。
神経細胞の数は星の数と桁が同じです。よく引用されるたとえですが、ここで止まると半分しか見ていないことになります。
違いはつながりにあります。星どうしは触れません。神経細胞は一つが平均7000個とつながっていて、全体のつながりは100兆個に達します。数ではなくつながりが、脳を脳にしています。
ここで外が一度出てきます。このサイトはもうすぐまた外へ出ていく予定です。ただしその扉は、体のいちばん内側の端にあります。
細胞一つごとに2メートルの糸が入っています。その糸に書かれているのは命令ではなく、条件つきの指示に近いものです。
染色体46本をすべてつなぐと2メートルです。その糸が直径0.00001メートルの核の中に入っています。比率でいえばテニスボールの中に200キロメートルの糸を入れたのと同じです。
そしてその仕事が細胞30兆個で同時に起きています。体でもっとも精巧な作業は、いまも誰も見ていないところで進んでいます。
DNAはヒストンというたんぱく質の塊に、糸巻きのように巻かれます。その巻かれた単位がまたねじれ、そのねじれがさらに折りたたまれます。段階ごとに体積が減り、最終的に1万分の1まで圧縮されます。
ところが、ただ丸めておくわけにはいきません。必要な遺伝子をいつでも取り出して読めなければなりません。だからよく読む部分はゆるく、読まない部分は固く折りたたまれます。
どの部分がゆるくどの部分が固いかは細胞ごとに違います。同じ本を持ちながら、それぞれ別のページだけを開いて読んでいるわけです。肝細胞と神経細胞が違う理由がここにあります。
ヒトゲノム30億文字のうち、たんぱく質の設計図として使われる部分は2パーセントあまりです。しばらくのあいだ、残りは「ジャンクDNA」と呼ばれていました。
いまはその名を使いません。その区間には、いつどの遺伝子を入れるかを決めるスイッチがあり、RNAとしてだけ読まれてたんぱく質にならない調節要素があり、49番で見たウイルスの痕跡があります。
ただし、すべてが機能を持つという意味でもありません。どこまでが機能でどこからが残骸なのかはまだ議論の途中です。確定していないことは確定していないと書きます。
DNAを複製する酵素は、鎖のいちばん端を完全にコピーできません。構造上そうなっています。だから分裂のたびに染色体の端が少しずつ短くなります。
大事な情報が削られないように、端には意味のない配列が繰り返しついています。これがテロメアです。靴ひもの先のプラスチックのような役目です。
その余裕がすべてすり減ると、細胞はそれ以上分かれずに止まります。分裂の回数に限度があるということは、欠陥ではなく安全装置でもあります。無限に分かれる細胞が何なのかは54番ですでに見ました。
この限度をヘイフリック限界と呼びます。1961年、培養したヒト細胞が一定の回数のあとそれ以上分かれないことが観察されて知られました。
ところが40回分かれるだけでも細胞は1兆個を超えます。限度があるということと足りないということは別の話です。
生殖細胞と幹細胞はテロメラーゼという酵素で端を伸ばし直します。だから世代が続いても系譜全体がすり減って消えることはありません。
細胞一つのDNAには一日に数万件の損傷が生まれると推定されます。紫外線、活性酸素、自然に起こる化学反応、複製の失敗。原因はいくつもあります。
ところが大部分はその日のうちに直されます。損傷の種類ごとに担当する修復のしくみが別にあり、二本の鎖がらせんでくっついている構造そのものが、片方が壊れても反対側を見て復元できるようにできています。
体がよく保たれている理由は、損傷が少ないからではありません。損傷が多いのに、それよりもっと多く直しているからです。
複製の正確さはとても高いのです。10億文字に一度ほど間違えます。ところがゼロではありません。そしてその点が大事です。
複製が完全なら子孫は親とまったく同じです。変異がなければ選ぶものもなく、環境が変わっても対応する方法がありません。進化は誤りを材料として使います。
完全でないからここまで来ました。あなたが存在する理由の一つは、どこかで何かが間違ってコピーされたからです。
発生4週から5週のあいだ、人の胚には背骨がお尻の先まで続いたしっぽがあります。椎骨で十個ほど。そして8週ごろに大部分が予定された死で吸収されます。残ったものが尾骨です。
同じ時期、首のあたりには咽頭弓というひだができます。魚ではえらになる構造です。人ではあごと耳と喉頭の材料になります。消えるのではなく別のものとして使われます。
発生の過程は祖先の歴史をそのまま再生するのではありません。ただ古い設計を完全には捨てられず、その上に直して建てるのです。
受精卵は細胞一つです。40週後には細胞数2兆個を超える体になります。そのあいだに心臓が打ちはじめ、神経管が折りたたまれ、指が削り出されます。
驚くのは指示書の大きさです。この全過程を導く情報は、その最初の細胞の中の2メートルの糸一本に入っていました。設計図ではなく、順に入っていくスイッチの一覧に近いものです。
発生6週まで、胚の生殖の構造はどちらにも進める形でつくられます。同じ原基から始まり、そのあとに入る遺伝子とホルモンによって別々の器官へ発達します。
だから男女の器官のあいだには対応関係が残ります。同じ材料から分かれたからです。
ここまでが発生学の言う事実です。このサイトは事実だけを書き、解釈を付け足しません。
「遺伝子に書かれている」という言い方は誤解を招きます。遺伝子に書かれているのは結果ではなくどんな条件で何をつくるかです。条件が変われば結果も変わります。
しかも、どの遺伝子を読むかは化学的な目印で調節されます。DNAにメチル基がついたり、ヒストンの尾が化学的に変わったりすると、その区間は読まれたり読まれなくなったりします。この調節をエピジェネティクスと呼びます。
目印は環境によって変わり、細胞が分かれるときにたいてい一緒にコピーされます。体は指示書を受け取ったのではなく、いまも読み直し、直し続けているところです。
一卵性双生児はゲノムがほぼ同じです。ところが年を重ねるほどエピジェネティクスの目印の分布が開きます。何を食べたか、どう生きたか、何にさらされたかが、読み方を変えます。
だから同じ本を持って始めても、時間がたつと別のページを開いて読むようになります。病気のリスクも、老化の速さに見える指標も分かれていきます。
遺伝子は出発点であって結末ではありません。 そしてその出発点さえ、前の部で見たように、すべてがあなたのものではありませんでした。
細胞よりさらに中へ入ると原子が出てきます。そして原子は、ほとんど何もないものでできています。
体には原子が約7 × 10²⁷個あります。7のうしろに0が27個つきます。観測できる宇宙の星の数はおよそ10²²から10²⁴個と推定されます。体一つが、宇宙の星すべてより数十万倍多い部品でできています。
そのうち大部分は水素です。個数で数えると10個のうち6個が水素です。重さで数えると酸素がいちばん多くなります。水素が軽すぎるからです。
数え方によって答えが変わります。体を理解するのに数字ひとつでは足りない理由がそれです。
原子核の直径は原子の直径の10万分の1です。原子をサッカー場の大きさに広げると、核は真ん中に置かれた米粒ほどです。残りはすべて、電子が確率として広がっている空間です。
核だけ残してすべて押しつぶすと、人ひとりは直径0.008ミリメートルになります。赤血球一つとほぼ同じ大きさです。よく引用される「塩の粒」は、人ひとりではなく人類80億人全体を押しつぶしたときに近いものです。それも塩の粒より大きく、一辺1.4センチメートル、角砂糖一つほどになります。
それでも壁を押すと手は通り抜けません。ほとんど空っぽのものどうしが、互いをふさぎます。
中性子星物質の密度(約2.3×10¹⁷ kg/m³)を基準に計算しました。ひろく広まったたとえが桁を取り違えた例なので、ここでは計算し直して直しました。
ほとんど空っぽのものどうしが、なぜ通り抜けられないのでしょうか。二つが止めます。一つは電子どうしが押し返す電気的な反発、もう一つは同じ状態に二つの電子が入れないという規則です。
二つ目は力ではなく規則です。ところが結果は力のように現れます。電子を狭いところへ押し込もうとすると抵抗が生まれます。あなたが椅子に座っていられる理由のかなりの部分が、この規則です。
3番で始まった話がここで閉じます。あなたが一生触ってきたのは物体ではなく、押し返しでした。 そしてその押し返しは、ほとんど空っぽのものたちがつくり出しています。
体に蓄えられているATPは50グラムだけです。使い切れば2分ももちません。ところが一日に消費する総量は体重ほどになります。
矛盾のように見えますが答えは簡単です。同じ分子を一日に千回以上つくり直して使います。使い終わればまたつなぎ直してもとに戻します。その再組み立てがミトコンドリアで起きています。
ですから体はエネルギーを蓄える桶ではなく、休まず回り続ける回転扉に近いのです。
休んでいるとき体が出す熱は100ワット前後です。昔の白熱電球一つと同じです。眠っているあいだも70ワットほどは出続けます。
だから人が集まると部屋が暑くなります。100人いる部屋には1万ワットの暖房が入っているようなものです。大きな建物の冷房の設計には、実際に人数が入ります。
その熱は副産物ではなく本体です。体のする化学反応のかなりの部分は、結局は熱で終わります。生きているということは、まわりより熱いということでもあります。
食べたものが体から出ていく経路を重さで見てみると、いちばん大きな出口は大腸でも腎臓でもなく肺です。脂肪が分解されると大部分が二酸化炭素になって息として出ます。
炭素・水素・酸素でできた分子を燃やすと、二酸化炭素と水が残ります。水は尿と汗として、二酸化炭素は息として出ます。体から出ていく重さの大部分は空気中へ散っていきます。
直感とは反対です。私たちは何かが消えると下へ行ったのだろうと考えます。実際には上へ行きます。
トン単位が体を通り過ぎたのに体重はそのままです。入ってきた分だけ出ていったからです。体は貯蔵庫ではなく通過点でした。
そしていまあなたをつくっている原子は、その流れのなかでしばらくつかまえられたものです。52番で見た川がここでまた出てきます。
重さの総量だけを計算します。カロリー・体重・体脂肪は扱わず、この値は標準的な基準値によるおおよその大きさの感覚のためのものです。
歩いているあいだ、体は倒れています。一歩ごとに前へ重さを流し、もう片方の足がそれを受けます。歩くことは制御された転倒です。
だから歩くのにかかるエネルギーは思ったより少ないのです。二本の足で歩くやり方は四本より遅いけれど、はるかに長くもちます。人は速く走るかわりに遠くまで行くほうを選びました。
もっとも深く入った場所で、扉が一つ開きます。その扉は外へ、それもずっと遠くへつながっています。
体の99%は六つの元素でできています。それぞれつくられた場所が違います。
水素を除けば、すべて星の中でつくられました。星が寿命を終えて散らばらなかったなら、これらの原子は存在しなかったはずです。
ですから体の中へ最後まで入っていく道は、外へ出ていく道でもありました。内側の端から宇宙が出てきます。
ビッグバンのあとの数分間、宇宙は水素とヘリウム、そしてごくわずかなリチウムだけをつくりました。次の元素がつくられるには星が必要で、星ができるまでには数億年がさらにかかりました。
ですから体の中の水素原子は、いまの宇宙と同じだけ古いのです。水の分子一つに水素が二つずつついています。あなたの60パーセントが水であり、その水の大部分は宇宙が最初につくった材料です。
残りの元素はすべて星の内部を通り抜けました。体の中には、星を経ていない物質と経た物質が混ざっています。体は二つの時代の材料でできています。
血漿に溶けているイオンの種類とおおよその比率は海水と似ています。ナトリウム・塩素・カリウム・カルシウム・マグネシウム。濃度は海水の3分の1ほどで薄いのです。
この似ていることが、そのまま「血は昔の海だ」という意味ではありません。海の組成は時代ごとに違い、体もつねに調節しています。ただ、細胞が働くようにつくられた条件が海で決まったことは確かです。
細胞はいまもその条件でしか働きません。だから体はその環境を中に抱えて保っています。海を離れたのではなく、少し抱えて出てきたのです。
この原子たちは星でつくられて宇宙をさまよい、地球ができるときにここへ運ばれ、石と水とほかの生きものを経ていまあなたの中にあります。そしてもうすぐ出ていきます。すでに出ていっています。息として、水として、落ちる皮膚として。
残るのは物質ではなく配置でした。そしてその配置を保つ仕事に、あなたは一人で参加していたのではありません。細胞30兆個、細菌38兆個、飲み込まれたまま残った細菌の子孫たち、ウイルスが置いていった配列、そして母から渡ってきていまも残っている細胞たち。
外から見ればあなたは小さかったのです。中から見ればあなたは一つではなく群れであり、その群れの材料は星から来ました。 同じものさしを別の場所に当ててみた五つの場所が下にあります。
心臓は拍子を数えます。一日を数えるのは別の時計です。そしてその時計も一つではありません。
光が全くない場所に人を置いて時計を取り上げても、寝て起きるリズムは残ります。ただしその周期は24時間ではありません。平均24時間12分ほどになります。
体は毎日少しずつ遅く寝て遅く起きます。朝の光がそのずれを毎日戻します。毎朝あなたがしていることは、時計を合わせ直すことです。
中枢時計は脳の視床下部にある視交叉上核です。米粒より小さく、約2万個の細胞でできています。目からの光の情報を直接受け取ります。
しかし時計はそこだけにあるのではありません。肝臓にも、腎臓にも、肺にも、皮膚にも、それぞれの時計が動いています。肝細胞を取り出して皿に置いても、数日は24時間リズムを出し続けます。
体は一つの時計で動く機械ではありません。数十億個の時計が互いに合わせながら動く群れです。ここでも一つではありません。
—
37度は一日中保たれる値ではなく平均値です。実際には明け方4~5時に最も低く、夕方6~7時に最も高くなります。その差は0.5度から1度です。
だから同じ人の体温を明け方と夕方に測ると違う数字が出ます。体が悪くなったのではなく、時計が回っている最中です。
体温の正常範囲は人により、測る部位によって異なります。健康状態を判断する基準ではありません。
飛行機に乗ると体はまるごと運ばれます。しかし時計はまるごと運ばれるわけではありません。
光を直接受ける中枢時計は比較的早く合います。肝臓や筋肉の時計は遅いです。おおよそ一日に一時間ずつ追いついてきます。8時間分をまたいだ場合、すべて合うまでに一週間近くかかります。
その間の体は、時計が互いに違う時刻を指している状態です。脳は昼だと言い、肝臓は夜だと言います。時差ぼけがつらいのは睡眠が足りないからではなく、体の中で時刻がずれているからです。
両方の値を入れると中央地点が出ます。
朝型と夜型を分ける基準として使われる値が睡眠中央時刻です。眠りについた時刻と目覚めた時刻の真ん中を指します。目覚まし無しで眠る日を基準に見ます。
この値はおおむね生まれつきです。年齢によって動くこともあります。10代後半で最も遅くなり、その後また早まります。10代が朝起きられないのは怠けているからではありません。
晴れた日の屋外の明るさは10万ルクスほどです。曇りの日でも1万はあります。しかし明るいと感じるオフィスは500ルクス前後です。
目はこの差をあまり感じません。明るさに合わせて瞳孔を絞るからです。しかし時計を合わせる回路は絞りません。入ってきた光の量をそのまま数えます。
だから一日中室内にいると、体は一日中たそがれの中にいたと計算します。外に出て10分立つことが、室内照明の数時間より強いのです。
室内と屋外の差は、目が感じるよりずっと大きいです。
明るさは対数で感じられます。10倍明るくなっても2倍ほど明るく感じます。この錯覚のせいで室内照明で十分だと思ってしまいます。
棒の長さは実際の倍率です。目ではなく時計が数える方式で描きました。
眠っている間、脳の脳脊髄液の流れが増えるという観察があります。その流れが昼間にたまった老廃物を洗い流すという説明がグリンパティック仮説です。
ただしまだ確定したものではありません。観察の多くはマウスから得られたもので、人でも同じように起きるのか、流れが本当に増えるのかについて、まだ論争があります。
確かなのはこれです。眠りは何もしない時間ではありません。起きている間にできないことをする時間です。
眠りは90分前後の周期で繰り返されます。一周期の中で浅い眠り、深い眠り、レム睡眠が順番に過ぎていきます。一晩に4回から6回回ります。
周期ごとに構成が違います。前半の周期には深い眠りが多く、後半に行くほどレムが長くなります。明け方に見る夢がより長く鮮明に記憶される理由です。
だから眠りを半分だけとっても半分を得るわけではありません。どちらの半分を切ったかによって失うものが違います。
周期が終わる頃に起きると軽く感じます。周期の真ん中の深い眠りから無理に起きると、しばらくぼんやりした状態が続きます。
ただし90分は平均に過ぎません。人によって違い、同じ人でも夜によって違います。正確な時刻表ではなく大まかな目盛りとして見てください。
睡眠に関する一般的な説明であり、医学的助言ではありません。睡眠の困難が続く場合は医療従事者に相談してください。
昼間に起きたことはまず海馬に仮に書き込まれます。海馬は容量が小さいです。長く置くと次のものを受け取る場所がなくなります。
眠っている間、海馬は昼間に書いたことを繰り返し再生します。その信号を受けて大脳皮質が同じ内容を自分の側に書き直します。仮の記録が本記録に移されるのです。
だから徹夜して試験を受けると、その日は持ちこたえても数日後には残りません。書き写す時間を与えなかったからです。
—
エビングハウスは自分自身を対象にこの実験をしました。意味のない音節を覚え、時間が経った後いくつ残っているか数えました。結果は最初の一日に最も多く抜ける曲線でした。
見直すたびに曲線が緩やかになります。同じ時間をかけても一度にまとめて見るより分けて見る方が長く残ります。忘れる直前にもう一度見るのが最も効率が良いです。
忘れることは体が怠けているからではありません。すべて残せば必要なものを見つけられなくなります。
中枢時計は光で合わされます。しかし肝臓や消化器の時計は光を見ません。食べる時刻を見ます。
だから夜遅くに食べると肝臓の時計だけが後ろにずれます。脳は夜だと言い、肝臓は昼だと言う状態になります。時差ぼけと同じ種類のずれが、飛行機に乗らなくても起こります。
時刻が変わった場所に移ったとき、そこの時刻に合わせて食べることが助けになるという観察があります。ただしどれだけ、どのように効果的なのかはまだ整理されていません。
体が出す熱を電球に当ててみます。
93番で人はおよそ100ワットを出すと言いました。その値は安静時のものです。何をしているかによって何倍にも上がります。
この熱は捨てられているのではありません。体温を作るのがまさにその熱です。人が寒い場所でも生きられる理由は体そのものがストーブだからです。
成人平均に基づく一般的な数値です。個人の熱量必要量や体重管理の目標を示すものではありません。
筋肉が収縮すると力が出て熱も出ます。震えは力は捨てて熱だけを使う方式です。筋肉を互いに反対に引っ張ってどこにも動かないようにし、その過程で出る熱だけを取ります。
震えずに熱を出す道もあります。褐色脂肪はエネルギーを力に変えず、まっすぐ熱に流します。赤ちゃんに特に多く、大人にも首や鎖骨の近くに残っています。
体には暖房方式が二つあります。どちらにしても結局は原子が場所を変えながら出す熱です。
水1グラムが蒸発する時、体から約2,400ジュールを持ち去ります。汗はその原理で体を冷やします。人は体全体に汗腺が広がっており、毛が薄いため蒸発を妨げません。
ほとんどの哺乳類はこれができません。犬は舌で、馬は限られた方法で冷やします。だから短い距離では人が負けますが、暑い日中に長く走る競走では人が勝ちます。
速くはない代わりに長く続きます。体の中の冷却装置一つがその違いを生みました。
メラトニンは暗くなると出始め、明け方に最も多くなります。コルチゾールは起きる1~2時間前から上がり始め、朝に最も高くなります。体温はその間で、また別の拍子で動きます。
三つの曲線の頂点が互いに違う時刻にあります。体は一日を一度に準備するのではなく、順番を分けて準備します。
生まれた月によって、ある形質や病気の頻度が少しずつ違うという統計がいくつも報告されています。昼の長さ、母親が受けた日光の量、その季節の感染症流行などが理由として挙げられます。
ただしこの分野はほとんど確定していません。差はごく小さく、国によって結果が違い、入学時期のような社会的要因と区別するのが難しいです。南半球と北半球で逆に出るのかも十分に確認されていません。
だからこの項目はこうとだけ書きます。人に一日のリズムがあることは明らかです。一年のリズムがどれだけ残っているかはまだ分かりません。
年齢を重ねると体温の一日の振れ幅が小さくなります。メラトニンの出る量も減り、出る時刻も早まります。眠りは短くなり頻繁に途切れます。
消えるのではありません。振れ幅が低くなるのです。山が低くなれば谷も浅くなります。昼と夜の対比がぼやける方に近いです。
だから年齢を重ねた人には朝の光と規則的な食事時刻がより大きく働きます。信号が弱まるほど、外から来る信号が占める割合が大きくなります。
夜ごとに4~5回ずつ周期が回り、明け方ごとに体温が一度ずつ底を打ちました。そのたびに朝の光が時計を合わせ直しました。
一番下の値は光が一度もなかったなら体の時計がずれていたはずの時間です。その分を毎朝が戻してきました。リズムは自然に保たれたものではありません。
免疫は外を防ぐ壁ではありません。何が内側なのかを絶えず確かめ直す仕事です。
免疫を防御と呼ぶと誤解が生まれます。外から来るものをすべて防ぐ装置なら、体内の細菌38兆個をまず消していたはずです。
実際に免疫が投げかける問いは「自分のものか」に近いです。そしてその判定は生まれつきではなく、生まれた後に学びます。何が内側かを学んだ後は、学んだものには手を出しません。
だから第4部の群れは無事です。免疫は彼らを見えていないのではなく、内側として登録しておいたのです。
初めて出会った病原体には抗体が出るまで一週間以上かかります。合う受容体を持つ細胞を見つけて呼び出し、増やすのにそれだけかかります。病む期間がその時間です。
同じものに再び出会うと数日で、しかもずっと多く出ます。前回選んでおいた細胞を残しておいたからです。それが記憶細胞です。
免疫の記憶は知識ではなく残しておいた細胞の数です。記憶はここでは物です。
ワクチンは体を防いでくれるものではありません。病原体の一部やその設計図を見せて、病む過程なしに記憶細胞だけを残させるものです。
だからワクチンを打って数日体が重いのは失敗ではなく、その過程そのものです。122番の最初の曲線を実際に描いている最中です。
免疫において時間は最も高価な資源です。病原体が速い相手のとき、一週間を前もって稼いでおいたかどうかが結果を分けます。
体温が上がると多くの細菌やウイルスの増殖速度が落ち、免疫細胞の活動は速くなります。発熱は体が選んだ戦略です。視床下部が基準温度そのものを上げます。
だから熱が上がる時は寒く感じます。体は新しい基準より今の温度が低いと判断し、震えて熱を作ります。115番のあの仕組みです。
ただし熱は体にとっても費用です。代謝が速くなり水分が失われます。戦略という言葉はただという意味ではありません。
熱に関する一般的な生理学的説明です。症状の判断や対処は医療従事者に相談してください。
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ゲノムには抗体一つ一つの設計図が入っているわけではありません。代わりに断片の組が入っています。それぞれの枠から一つずつ選んでつなげると、互いに違う受容体になります。
つなげる箇所ごとに数文字ずつ挟んだり削ったりします。だから実際の種類は組み合わせよりずっと多くなります。10の11乗を超えると見られています。
出会ったことのない病原体の鍵をあらかじめ持っている理由がこれです。予測したのではなく、無作為に大量に作っておいて合うものを選んで使う方式です。
無作為に作っておいたので、ほとんどは何の役にも立ちません。それでも構いません。病原体が入ってくると、それに少しでも結合する細胞だけを選んで増やします。
増える間、その細胞は自分の設計図にわざとエラーを起こします。その中でより良く結合するものが再び選ばれます。数日の間に同じことが体内で何世代にもわたって起こります。
設計ではなく選択です。第7部でエラーが材料だと言ったあの構造が、ここでは数週間単位で回っています。
無作為に作ると自分の体に結合する受容体もできます。そのままにしておくと体が自分を攻撃します。
だからT細胞は胸腺という器官を通ります。そこで体のさまざまなタンパク質の断片を順番に見せます。強く結合しすぎる細胞はその場で死にます。ほとんど結合しない細胞も役に立たず死にます。
生き残るのはほどよく結合するものだけです。免疫の判定基準は最初からあったのではなく、この試験を通過しながら作られます。
胸腺に入ったT細胞のうち外へ出て行くのは2パーセント前後です。残りは全てその中で死にます。
無駄に見えますが他に方法がありません。無作為に作ったので無作為にふるいにかけなければなりません。免疫が自分を攻撃しないのは、うまく作られたからではなく誤って作られたものを大量に捨てているからです。
胸腺は思春期以降だんだん小さくなります。新しいT細胞を作る速度も一緒に落ちます。年齢とともに免疫が変わる理由の一つです。
127番の試験は完璧ではありません。胸腺がすべてのタンパク質を見せることはできず、体が後で作るものもあります。
だから自分を他人として読む細胞が漏れ出ます。たいていは別の仕組みが抑えておきます。その抑制が外れると体が自分の組織を攻撃します。
自己免疫は免疫が弱いから起きるのではありません。むしろ力はそのままで的だけがずれた状態です。強いか弱いかではなく、合っているか間違っているかの問題です。
アレルギー反応を起こす経路は、もともと寄生虫のような大きな相手を狙って作られたと考えられています。粘液を増やし、咳やくしゃみを起こし、組織を腫らして押し出す方式です。
その仕組みが花粉やほこりのような害のないものに発動するとアレルギーになります。体は一生懸命働いています。ただ相手を間違えました。
なぜある人にこうした誤判定が起きるのかはまだ整理されていません。幼少期の微生物への曝露と関連づける説明が広く引用されますが、その説明だけでは足りないというのが今の見方です。
細胞が群れに留まるために守るべき約束があります。
体の細胞一つ一つは単独で生きられる能力を持ちながらも使いません。隣がやめろと言えば止まり、場所を離れたら自ら死に、分裂回数を数えて限界でやめます。群れで生きる代償として能力を手放したのです。
がんはその約束を一つずつ手放した細胞です。外から入ってきたのではなく内側から出てきたものです。だから免疫が判定するのに最も難しい相手でもあります。127番の基準では依然として「自分のもの」だからです。
細胞生物学の一般的な説明です。病気の診断・予測・治療に関する情報ではなく、個人の危険性を示すものではありません。
82番で設計図に毎日エラーが起きると言いました。その一部は131番の約束を手放す方へ向かいます。特別なことではなく細胞が分裂する限り続くことです。
ほとんどはその場で終わります。細胞が自ら止まるか、隣が防ぐか、免疫が見つけて片づけます。体はこの判定を毎日数え切れないほど下しています。
だからこの節で数えられるのはここまでです。どれくらいの頻度で漏れ出るのか、誰にそうしたことが起きるのかは、このサイトが扱える種類の数ではありません。
このサイトは病気の危険性を評価しません。体に関する判断は必ず医療従事者と行ってください。
リンパには押してくれるポンプがありません。
体にはもう一つ循環があります。組織の間から漏れ出た液体を集めて血管に戻す道です。免疫細胞が行き来する道でもあり、リンパ節がその道の検問所です。
しかしこの循環には心臓がありません。22番の静脈のように、周りの筋肉が絞り、弁が逆流を防ぐ方式で流れます。
だから長くじっとしていると遅くなります。体を動かすことがこの循環にとってはポンプを入れることです。
切った箇所は決まった順序を通ります。まず血を止め、次に炎症を起こして掃除し、その後新しい組織で埋め、最後に数か月かけて再び織り直します。
炎症はこの順序の一段階です。腫れて熱を持ち痛むのは故障ではなく工事中という表示です。9番で治る順序をすでに見ました。
ただし最後の段階は元通りにはなりません。コラーゲンが元の織り方ではなく急いで平行に並びます。だから傷跡は元の皮膚より伸びにくく、毛も生えません。早く塞ぐ方を選んだ代償です。
炎症は有用ですが高くつきます。組織を溶かし細胞を殺す道具を使うからです。短く使って切ることを前提に作られた仕組みです。
それが低い強さで長くつき続けている状態を慢性炎症と呼びます。いくつかの慢性疾患と共に現れることが観察されています。ただしどこまでが原因でどこまでが結果なのかはまだ整理されている最中です。
免疫は強いほど良いものではありません。点けたり消したりが正確なほど良いのです。群れを守ることは、いつ止めるかを知ることでもあります。
配置はいつか解けます。しかし解けた場所で消えるものは何もありません。
死はある一時点の出来事のように記されますが、体の中では順序のある過程です。酸素が絶たれると脳が最初に耐えられなくなります。数分です。
しかし他の細胞たちはしばらく生きています。皮膚の細胞や角膜の細胞は数時間、ある組織はそれより長く続きます。臓器移植が可能なのはその時間のおかげです。
第5部で体は細胞の群れだと言いました。群れが群れとして終わった後も構成員の相当数はまだ生きています。終わるのは細胞ではなく配置です。
体を分解する仕事の相当部分は外から来たものが行いません。腸の中に住んでいた細菌が行います。第4部で数えたあの38兆個です。
生きている間、彼らは腸の内側にとどまっていました。免疫が線を守り、腸壁があり、酸素の条件が彼らを閉じ込めていました。その条件がなくなると線もなくなります。
敵が勝ったのではありません。共に暮らした群れが最後の仕事をしているのです。借りた原子を再び解き放つ仕事を、体の中で共に過ごした側が引き受けます。
97番でどこから来たかを見ました。ここではどこへ行くかを見ます。
97番でこの原子たちは星から来たと言いました。その原子たちは体にしばらくとどまっていただけです。去った後も消えません。次の場所へ行きます。
行く速さは元素ごとに違います。炭素は数年以内に再び生物の中に入ります。カルシウムはずっと遅いです。同じ体から出たのにそれぞれ違う時間割で散っていきます。
炭素は大気と植物と動物の間を速く巡ります。今吐いた息の炭素が数年以内にどこかの葉の中に入っているかもしれません。
カルシウムは違います。骨に入ったカルシウムはなかなか解けません。土と岩を経て再び生物に届くまで数千年かそれ以上かかります。
だから体が散った後、原子たちは一緒には行きません。あるものは次の季節に別の生物になり、あるものは人がいなくなった後も石の中で待っています。
第8部で体を通り過ぎた物質の量を数えました。ここではその物質が今どこにあるかを数えます。
吐いた息は散らばりましたが消えてはいません。大気全体に混ざりました。そして大気は思ったより小さいのです。だから今吸っているひと口にもかつてあなたが吐いた分子がいくつか入っています。
最後の値がその個数です。体の境界は第1部ですでにぼやけていましたが、この計算では時間の面でもぼやけます。
体で長く残るのはミネラルです。骨と歯の半分ほどはカルシウムとリンの結晶です。137番の分解者たちはそれを食べません。栄養にならないからです。
役に立たないから残ります。柔らかく情報の多い部分は全て速く戻っていき、最も活用度の低い部分だけが場所に残ります。
私たちが昔の人について知ることのほとんどはここから来ます。記憶は残そうとした場所にではなく、誰も持って行かなかった場所に残りました。
第5部で体は絶えず入れ替わると言いました。例外がいくつかあります。歯のエナメル質もその一つです。成長する間に一度作られ、その後は細胞が手を加えません。
だからエナメル質にはその時に飲んだ水の痕跡がそのまま固まっています。地域ごとに水の酸素・ストロンチウム同位体比率が少しずつ違うため、これを測るとその人がどこで育ったかを絞り込めます。
修復されないという性質が弱点であると同時に記録になりました。入れ替わらなかったものだけがいつのものかを語れます。
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親は2人、祖父母は4人、その上は8人です。一世代さかのぼるごとに倍になります。40世代さかのぼるだけで1兆人を超えます。その頃の地球にそれほど人はいませんでした。
だから計算が間違っているのではなく前提が間違っているのです。祖先が互いに違う人だという前提が間違っています。同じ人が系図の複数の場所に重なって入ります。
46番で微生物をさかのぼりました。ここでは人をさかのぼりましたが、同じ場所に行き着きます。さかのぼると群れは一つに集まります。
系図が重なるということは、人々の祖先リストが互いに重なり合うということでもあります。十分にさかのぼると今生きているすべての人の祖先である人が現れます。
どこまでさかのぼる必要があるかについては数理モデルの研究があります。移動や地理的な隔離をどう見るかによって結果が大きく変わるため、ここでは特定の年代は書きません。確定した値ではありません。
確かなのは方向です。さかのぼるほど系図は枝分かれせず集まります。これは文化や信念の問題ではなく、掛け算の結果です。
ヘンリエッタ・ラックスは1951年に31歳でこの世を去りました。治療の過程で採取された彼女の細胞は皿の中で分裂を続けました。今も世界中の研究室で育っています。81番で見た分裂限界を超えた細胞です。
この細胞でポリオワクチンが試験され、数多くの研究が行われました。しかし採取と使用について本人も家族も同意したことはありません。家族がその事実を知ったのは20年以上経ってからでした。
この節にこの事実を共に書く理由があります。体の一部が体を離れて生き続けることは生物学の話ですが、誰の許可でそうなったのかは生物学の問題ではありません。成果だけを書いて通り過ぎれば、このサイトが守ってきたやり方とずれます。
47・48番で母子間の細胞を見ました。道はそれだけではありません。
47番と48番で母親と子どもが互いの細胞を分け合うと言いました。それは体の境界が思ったより開いているという話でした。
医学はその扉を意図的に開きます。輸血と移植は他人の細胞を体の中で生かすことです。そのたびに121番の問いが再び出てきます。これは自分のものか。
42番で最初の微生物がどこから来るかを見ました。子どもが受け取るのは設計図だけではありません。初めて体に入り根づく群れも一緒に受け継がれます。
その次には何を食べるか、いつ眠るか、どんな空気を吸うかが続きます。88番で見た通り、同じ設計図でもどんな環境で読まれるかによって結果が変わります。
だから受け継ぐという言葉は遺伝子より広いのです。体と共に体が置かれた条件が引き継がれます。群れは細胞だけでつながるのではありません。
このサイトが数えたものを一箇所に集めました。数が大きいということを言いたかったのではありません。
この数字たちはすべてあなた一人を指しながら、一つではないと言っています。細胞も複数、細菌も複数、時計も複数、祖先も重なっています。
100番でこの原子たちは借りたものだと言いました。しばらくあなたの配置をなしているだけだと言いました。その文章は寂しく読まれがちです。
しかし138番と139番を経てきた今は少し違って読めます。配置が解けるということは原子がなくなるという意味ではありません。次の配置へ行くという意味です。
今あなたを成している原子たちもそうやって来ました。星から出て、土と水と他の生物を経て、ここまで来ました。あなたはその長い列で今の順番です。
このサイトは体の境界から始まりました。どこまでが自分なのかを問い、その線が思ったよりぼやけていることを見ました。
内側へ入ると群れに出会いました。細胞30兆と細菌38兆。一つではありませんでした。さらに入ると、その群れも絶えず入れ替わっていました。物質ではなく配置でした。最後まで入ると星が出てきました。
そして今、反対方向へもう一度行きます。借りた原子は戻ります。戻った場所でそれらは再び何かの一部になります。あなたが一つではなかったように、その原子たちもここで終わりません。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
体の中で終わった話が、外ではどう見えるのか。五つの場所へ続きます。
ここまで数えた数字を一枚の画像にします。絵はこの端末の中で描かれ、どこにもアップロードされません。
生年月日を入れなくてもカードは作れます。入れるとあなたの数字が入ります。
画像を長押しして保存することもできます。